日本ではまだ、竹の歯ブラシをあまり見かけなかったころのことです。
ドイツでは、町のドラッグストアやスーパーに、竹の歯ブラシがごく当たり前に並んでいました。プラスチックの歯ブラシの隣に、しかも大きな面積をとって。特別なものではなく、日用品として置かれていることに、衝撃を受けました。
それが、THE HUMBLE CO.(ザ ハンブル コー)でした。
ヨーロッパでは、見ないことがないと言っていいほど。大人用の竹の歯ブラシで、世界でいちばん売れていると紹介されたこともあるブランドです。
けれど、私がこのブランドを応援したいと思うのは、竹だからでも、売れているからでもありません。その売上の行き先に、心を動かされたからです。
ひとりの歯科学生が見たもの
THE HUMBLE CO.は、2013年にスウェーデンで生まれたオーラルケアブランドです。
つくったのは、歯科医師のノエル・アブデイエムさん。歯科学生だったころ、ボランティアで訪れたジャマイカで、防げたはずの虫歯で歯を失う子どもたちに出会います。口のケアを受けられない、ただそれだけの理由で。
一方で、先進国では毎年、たくさんのプラスチックの歯ブラシが捨てられている。
このふたつを、いっぺんに解けないだろうか。そうして生まれたのが、竹の歯ブラシでした。
Humbleは「謙虚」。必要以上を求めず、本当に必要なものを誠実につくる。そんな思いが込められています。いまでは竹の歯ブラシだけでなく、植物由来のバイオプラスチックを使った歯ブラシやフロスなどへと広がり、70以上の国と地域で使われています。
謙虚という名前
竹や植物由来の素材を選び、あえて使わない素材や化学物質を「Ungredients」として公開する。飾らない、すっきりとした形。どれも、このブランドらしいところです。
でも、名前に込められたいちばんの意味は、もののつくり方だけではないように思います。
得たものを、自分たちだけのものにしない。謙虚という言葉がいちばんはっきり表れているのは、その売上の使い方でした。
利益ではなく、売上から

このブランドが支えているのが、ハンブルスマイル財団です。支援が必要な地域の子どもたちに、口のケアを届けている財団。その支え方は、ふたつあります。
ひとつは、製品そのもの。財団が子どもたちに届ける歯ブラシなどは、活動に必要なぶんだけ、ブランドが寄付しています。これまでに届けられた製品は、数十万点。私が洗面台で手に取る一本と、遠くの子どもたちが手にする一本が、同じブランドのもの。その距離の近さに、心をひかれました。
もうひとつは、毎年の売上の一部。基準が「利益」ではなく「売上」であることに、はっとしました。利益が出た年だけ、ではないのです。一本が売れるたびに、そのぶんがきちんと活動へとめぐっていく。寄付金はこれまでに、600万スウェーデン・クローナ(約7,400万円)を超えています。
やさしい言葉で納得させるのではなく、仕組みで約束している。そこに、このブランドの誠実さを感じます。
配るだけではなく
財団が活動しているのは、インド、エチオピア、ネパール、カンボジア、そしてジャマイカ。いまは20の国と地域に広がっています。
歯科医師や研究者、歯科学生のボランティアが、地元の学校の先生たちと一緒に、歯みがきや食事のことを伝えます。必要なときは、処置も。手洗いを広める活動もしています。
印象に残ったのは、地域の医療従事者への研修です。歯科医がいない土地でも、口のケアが日々の医療のなかに根づくように。一度きりの支援で終わらせず、その土地の人たちが自分で続けていけることを、大切にしています。
ジャマイカで一人の歯科学生が見たものは、いまもこのブランドの中心にある。そう感じます。
選ぶことで、応援する
THE HUMBLE CO.の歯ブラシは、ドラッグストアでいつも手に取る歯ブラシより、少しだけ高い値段です。
その差のなかには、売上から届けられる寄付が含まれています。毎日の歯みがきの道具が、そのまま遠くの子どもたちへの支援につながっていく。そう思えば、納得のいく値段です。
特別なことをしなくてもいい。いつもの歯ブラシを、こちらに替えるだけ。そのさりげなさも、このブランドを応援したい理由のひとつです。
一本ずつ
ドイツの棚で見た、あの当たり前の景色。それは、一本ずつの選択が積み重なったものだったのだと思います。
まずは、いつもの歯ブラシを一本だけ。